2024年06月01日
トリーター:笠川

デビュー日の裏側

ここ3年、毎年、クラゲサイエンスにて、クラゲに寄り添う姿がとてもかわいらしく、クラゲを食べながら成長する魚として紹介していたハナビラウオの幼魚が、つい先日、成魚の姿で展示水槽へ戻ってきました。
3年目にして、初の成魚展示です。
大きくなると 50cmほどまで成長するので、まだまだ小さいほうですが、立派に 20cmを超えました。生きた状態で展示されることは稀で、私もこのサイズのハナビラウオは初めてです。
今回は、バックヤードのクラゲ生産室で、ここまで成長させました。
1回目 2回目の苦い経験を活かし、3回目の成魚チャレンジでした。
成長に合わせて、水槽を転々とし、途中、大きな水槽がなかったため、ミズクラゲの水槽を区切って一緒に飼育していたときもありました。
区切らないとクラゲを食べてしまうので、ハナビラウオには餌を目の前にして食べられないというもどかしい環境だったかもしれません。
この頃のハナビラウオはものすごい食欲で、あげたらあげただけ食べてしまい、お腹がはちきれんばかりになっていました。ただ、クラゲは消化が良いのか、すぐお腹をすかせていました。
少しずつクラゲから他の餌も与えつつ、手探りで飼育を続けました。長くなってしまうので、ここには書ききれませんが、いろいろありました。間近で成長をみることができたこと、至近距離で観察できたことはとてもいい経験となりました。

幼魚の頃は浅場で見られますが、成長に合わせて深場へいく魚なので、海ではなかなか成長は見られませんし、そもそもそんなに出会える魚ではありません。
幼魚のときの魅力的でかわいらしい姿と比べると、かわいらしさはなくなってしまう成魚ですが、なかなか面白いところもあって、びっくりしたのが、頭部には鱗がなくて、つるっとしていて、口の中は黒いです。最初見たときは、どうしちゃったのかと一瞬戸惑いました。

それでは、本題のデビュー日の裏側のお話をします。
デビューした日は、5月 9日だったのですが、その日は、魚名板も出しておらず、どこにも掲示しませんでした。なぜならば、本当にどうなるかわからなかったので、ようすを見たかったためです。
3年目の挑戦、初成魚、えのすい初、たった1匹という、重圧。 なかなか緊張するスタートだったため、お許しください。
成魚は、水深 700mまで生息するようなので、デビューする展示水槽は、深海Ⅰのエビスダイがいる水槽にすることにし、それに合わせて徐々に水温を下げつつ、コンディションを整えていきました。
そして、5月 9日の開館前、深海担当の杉村トリーターとともに、いざ、お引っ越しです。
ハナビラウオは、幼魚のときは、さほど他の魚と変わらない扱いで問題はないのですが、成魚はかなり擦れなどに弱いです。普通の網などですくってしまうと擦れの原因になってしまいます。生きた状態であまり見られないのはそのせいです。

さぁ、緊張の瞬間です。クラゲ生産室からエビスダイがいる水槽へ引っ越し開始です。
擦れないように水ごと捕獲し、早足で移動、ゆっくり水合わせして水槽へ移そうとしたら、なんと飛び出し水槽へ速攻ダイブ。(やめてよ。ハナビラウオさん。心臓が飛び出るかと思いましたよ。こちらがどれだけ気をつかっていたと思っているのですか。)急いで水槽の中を覗くと、とりあえず無事です。水槽前からも確認し、とりあえず大丈夫だと判断し、デビューを終えました。
他の魚にやられないか ひやひやしましたが、とりあえず大丈夫です。エビスダイが、じとーっと見ながら背後をつけていましたが、何かするわけではありませんでした。ハナビラウオは、緊張のせいか、体表が真っ黒で、隅の方でじっとしていました。これからこの水槽で頑張れよとエールを送り、私は担当のクラゲの作業へ戻りました。
日中、他のトリーターも気になって、ちょこちょこ見に行っていたら、なんと偶然にも、“えのすい”の好きな瞬間 フォトコンテスト で、ハナビラウオの幼魚の写真で「えのすいトリーター賞」を受賞した方が来場されていました。
これはご縁ですね。どこにも告知はしていませんでしたし、たまたま出会わなければ、ハナビラウオが成長した姿をお見せすることもできなかったので、奇跡的な偶然、運命ですね。特別な日になりました。

現在のハナビラウオは、環境にも慣れ、ゆったり過ごしています。これからの成長が本当に楽しみです。

ハナビラウオの幼魚ハナビラウオの幼魚ハナビラウオの成魚ハナビラウオの成魚

深海Ⅰ-JAMSTECとの共同研究-

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