江戸の昔、黒インクを流したような大河が島々の間を流れるように見えたことから、八丈島と御蔵島、御蔵島と三宅島の間を流れる黒潮を、黒瀬川、海暗と呼んだとある。有吉佐和子の御蔵島をテーマとした小説のタイトル、『海暗』は今ではその島の代名詞に近い。
その日、海暗はどこまでも穏やかだった。秋晴れの三宅島坪田港を後にして 37分、もう少しで御蔵島目前というところ、どこからともなく、一頭また一頭と近付いて来て、気がつくと、私たちを乗せた船はイルカの群れの中にいた。ミナミバンドウイルカ 30頭といったところだろうか。
5、6頭のイルカが舳先で波乗りをしている。
突然、左舷後方から、一頭が水面高く飛び上がり、大きな放物線を描いた。白い水しぶきが黒い海に広がり、イルカはその中へと消えた。船から少し離れたところには、三角形の背鰭が二つ寄り添っている。一つは小さく、もう一つ大きい。親子だろうか。
そんなイメージだった。そのつもりだった。でも、
朝から今にも小雨の降り出しそうな十月の曇り空、海上は波があり、イルカウォッチングの船は厳しいのではと不安がよぎる。8時33分、おしどり丸船長、菊地氏に連絡を入れる。
「高波 3m、中止しよう」と告げられた。
日々、イルカにうなされている私としては、時にはイルカに癒されるつもりだった。
前回はシーズンオフで、今回は海に嫌われた。
次回こそは、海暗のイルカを拝めるだろうか。
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[ 2006年 御蔵島まで南下せよ。 ]