その時、K君は視線を下にして、明らかに緊張しているようだった。心拍数は 25回は増えたような気がした。
それは、反対の手で拭けば、もっと簡単だろう、の言葉を飲み込む、私。ここで、一言でもかければ、K君はフリーズする。
右手と左手を自分の胸の前で、不器用に交差させ、小刻みに震える指で、尾鰭の表面をアル綿(消毒した脱脂綿)でたどたどしく、拭く、K君。
24年間、K君はK君だったから、自分の体の動かし方ぐらい分かっているだろう、に?
そこまで拭くかとばかりに、かすかに表皮がはがれていた。 ここまでアル綿で拭いたのは、君が初めてだよ。
10mlの血液を採った後、「採血をするときにはもう少しやさしく、尾びれを拭いて」と、アピールするかのように、K君を見つめる、「セーラー」が大きく口を開けていた。
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