2014年01月28日
トリーター:石川

「ハク」と「セサミ」の子育て 後編

フンボルトペンギンの雛フンボルトペンギンの雛

今回は、雌×雌ペアの子育てを中心に、「ハク」「セサミ」の子育てについてお話します。

当館の雌×雌ペアの産卵や育雛は「セサミ(雌)と一昨年までペアだった「(故)クッキー(雌)」との間に育てられた「チョキ」から始まります。12年前のことです。

当初、「クッキー」は身体が大きくどっしりしていたので、卵がふ化したときには勝手に雄ではないかと思いこんでいましたが、後にDNA検査が登場して明確に父母がわかるようになり、雌と判明しました。
他のペアに託卵させるという方法は以前から他館でも頻繁におこなわれていて、野生種としては貴重種でもあるフンボルトペンギンを増やす手法の一つでしたが、雌×雌のペアということになると、それが良いのか、そうではないのか、ということについてはいささかの疑念がなかったわけではありません。
しかし、野生個体でも異常に卵が多い巣というのは確認されていると耳にしたことがあり、それが雌×雌の巣である可能性もあります。
いろいろと妄想は尽きませんが、鳥類という広い概念から考えれば、何があってもおかしくはない・・・というなかで、初めに「セサミ」と「クッキー」が普通に育雛を全うさせたことについてはまさに生物の多様性にほかならないと思います。

一方の「ハク(雌)ですが、私が知る 25年間、当館では雄と番を作った雌が(雄ではなくて)雌とペアを作るという行動は見られませんでした。「ハク」は雄の「(故)ジャンボ」と 6羽を育てているベテランです。新たに組んだペアが雌の「セサミ」というのは正直驚いていましたが、実はその経緯をたどって行くと「ハク」と「(故)ジャンボ」の最後の育雛を途中から支援していたような・・・という 2年前まで遡るのです。
当時「セサミ」は雛に興味があって、単純に親がいない時に勝手に巣を守るようなことをしていたと思っていましたが、今の関係を考えるとそれだけではないのかもしれないと思えてしまうのです。
「セサミ」は「ジャンボ」のお姉さん、「ハク」にとってはいわば小姑です。夫が亡くなった後、小姑と暮らし、他人の子ども(これは我々がお願いしていることですが・・・)を育てているという状況なのです。

「セサミ」ははじめからやる気満々でしたが、はじめはちょっと気負いすぎていました。それを子育てベテランの「ハク」がうまくフォローしていたように思います。ふ化して数日は雛の元気がなく、鳴き声も聞くことができませんでした。「セサミ」はなんとか餌をやろうといろいろ雛に刺激を与えていたのですが、「ハク」がそのやる気満々の「セサミ」から雛を引き取って 1日~ 2日は殆ど動かず温めることに専念していたように見えました。今までの「ハク」を見てきた私としては、「ハク」のやっていることが正しく思えて、彼女のやり方を尊重しました。すると雛は徐々に元気を取り戻し、かすかながら鳴き声も聞けるようになってきました。この時期はまだ液体に近いものしか親は与えず、徐々に消化されたものから、半分くらい消化されたもの、そしてほぼ丸のままと変わっていきます。これはほんの 10日間ほどで劇的に変わってくるのです。いかにこの時期の雛の変化を理解して与えていくかが重要です。
ここは「ハク」の熟練した経験が雛を救ったといっても過言ではないでしょう。
雛の調子が上がり調子になると、「セサミ」もがんばり始めました。
「ハク」より食べて雛へ餌を与えるようすをよく見るようになりました。

まだまだ安心できる段階ではありませんが、ぜひこれからも見守って行きたいと思います。

「ハク」「セサミ」の新たなチャレンジであり我々にとっても新たなチャレンジです。
みなさんもお越しの際は"そーっと"見守ってあげてください。

ペンギン・アザラシ

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