乗船採集の中では最も過酷といわれている作業です。
酷寒の中、荒れる海、船酔いと戦いながら、底引きで上がってきた生きものを選別する、下向きの作業。
過去には、途中から戦線離脱を余儀なくされた者もいましたが、2名体勢で出かけるこの採集、不思議とどちらかがつぶれるともう一方が頑張り、常に成果を上げてきました。
深場の生きものの採集なので、水温は低い方が、船上や輸送中のダメージも少なかろうということで、もっぱら冬の行事です。
今年度は、予定を組んだ日が海況不良で延びに延び、結局桜も咲こうかという3月の終わりになって、やっと決行の運びとなりました。
今回の挑戦者は、昨年度、晴れで凪といううらやましいコンディションの中で戸田デビューを果たした根本さんと、興味津々、怖いもの見たさで手を上げた足立です。
前日の夕方に戸田入りして、それぞれカサゴ定食とキンメダイ定食で腹ごしらえをし、翌日午前3時半の出港に備えて、早々と眠りにつきました。
朝午前 3時半。
煙るような小雨。寒さはそれほど感じませんでした。
いつもの待ち合わせ場所=製氷機の下にカッパ姿で待っていると、向こうの方から船が近づいてきました。水八丸さんです。
乗船して 1時間半ほどで、この日の漁場伊豆半島西側突端付近に到着し、早速 1回目のトロールが始まりました( 1日に 6回おこないます)。
この頃からだんだん寒くなってきました。
でも、寒い方がいいのだ、と自分に言い聞かせ、テンションを保ちます。
2~ 30分ほど網を引き、甲板にドシャッと漁獲物を広げます。
先に、私たちに時間をくれて、選らせてくれます。
そのあとは、漁師さんの本業の仕事場となります。
「なにが欲しいだ?」
「どうせ死んじゃうだから生きてるのはどんどん持ってけよー」
「これあどうだ、生きねえだか」
潮がいまひとつ良くなくて(この日はどす黒い色。青く澄んだ色だと、生きものもよく動いて、網にもたくさん入るのだそうです)、漁獲が少ないにもかかわらず、気のいい漁師さんたちは、水族館のバケツによさそうなものを放り込んでくれたり、水族館組が退場した後も、目ぼしいものがあるとわざわざ持って来てくれたりと、たいへん協力的でした。
2回目の網で、タカアシガニがちょっと破損して上がってきました。
間もなく、茹でタカアシガニができあがってきました。
獲れたてほやほや茹でたてほやほや。
鮮度100%!
根本さんも私も、初のタカアシガニ体験でした。
3回も網を上げると、作業の手順や、獲れる生きものもだんだん読めてきました。
経験者に話は聞いていましたが、ぼちぼち漁師さんが昼ごはんの準備を始めたようです。鍋から溢れんばかりの海産物が火にかけられました。
私たちのミッションも前半戦を終え、成果を見ながら後半戦の作戦会議をおこないました。
「メンダコをもうちょっとゲットしたいですね」
「サメは最後の2回ぐらいで採りましょう」
「ギンザメはどうしますか?」
「ミドリフサアンコウ、空気抜けて復活しましたね(お腹に気体が入って風船みたいになっていた)!もっと採ります?」
「魚は小さめのだけにしましょう」
「アカザエビ欲しいですけどね~、高価なものですから・・・」
4回目が終わり、昼ごはんの時間になりました。
「おおい、こっち来て食え」
「飯は持っとるか?」
「箸持ってるか?」
魚とエビのどっさり入った甘い汁・・・
事前情報どおりの匂いが漂っています。
過去にはこれでノックアウトされてしまった選手もいたようですが、根本・足立組は体調万全で、この「特製深海鍋」、注ぎ足された分まで美味しく完食しました。
ご馳走様でした。
5回目、6回目、船長さんからも
「もう最後だからたくさん持ってきな」
とのお言葉をいただき、拾い締め。
また1時間半かけて一路戸田港へ。
小雨だった雨脚が、漁が終わったのを見計らったかのように強くなり、風も吹いてきました。船もゆれています。
「おい、おめえたちは、おかず持ってくか?」
「はい、ありがとうございます」
「少ししかねえから、2人で分けな」
氷を入れたりするのを手伝おうとすると、
「いいよ、やってやるから」。
発泡スチロール箱に氷詰めにしていただいたエビや魚は、到底2人分とは思えない、大盤振る舞い!お土産までいただき、ありがとうございました。
15時半、戸田港に着くと、風雨は治まっていました。
船からトラックえのすい号に生きものを運ぶ時も、漁師さん総出で手伝ってくださいました。
「おう、山の上は雪みたいだから、気をつけて帰れよー」
「また乗りい来いよー」
「エビと魚を煮てやるからまた乗れよー」
「チェーンあるのかー?気をつけて帰れよー」
雨は降り続け、寒いし、風でボーボーになった髪を整える気力もありませんでしたが、なんだか、いい気分で、戸田を後にしました。
水族館に着いたのは19時過ぎ。
待っていてくれたスタッフと共に、水槽への搬入作業と片づけを終えたのは22時近くでした。
それでも、水槽のなかで、オオコシオリエビが背中を掻いたりしているのを見ると、12時間の乗船の疲れ(実はそれほど疲れは感じなかったのですが)も吹き飛んでしまいました。
水八丸のみなさん、本当にありがとうございました。
浜で打ち上がっている野生動物をみつけたら
どんな病気を持っているかわからないので、触らないようにしてください。
打ち上がった動物の種類や大きさ、性別などを調査しています。
さらに、種類によっては博物館や大学などと協力して、どんな病気を持っているのか、胃の中身を調べ何を食べていたのか、などの情報を集める研究をしています。
浜から沖の方へ戻したり、船で沖へ運んで放流するなど、自然にかえすことを第一優先にしています。
どんな病気を持っているのかわからないので、隔離できる場所がある場合は救護することがあります。しかし、隔離する場所がない場合、さらに弱っていてそのまま野生にかえせないと判断した場合は、他の水族館や博物館と連携して救護することもあります。